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「運転じょうず」の特許出願と思われる特開2003-338853の帰趨について調査してみました。おなじみの特許電子図書館(IPDL)の「特許・実用新案検索」を開き、審査書類情報照会をクリックして番号を入れればOKです。(稼働時間は午前5時から翌朝午前3時までです。)
2003年11月に拒絶理由通知書を受けています。内容を吟味してみましょう。
拒絶理由通知書
特許出願の番号 特願2002-183640
起案日 平成15年10月31日
特許庁審査官 矢頭 尚之 8838 5K00
特許出願人 株式会社ブレイブ 様
適用条文 第29条第2項
この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものである。これについて意見があれば、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出して下さい。
理 由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
請求項1に関して
引用文献1における装置番号が本願請求項1に記載された発明の識別データに対応することから、引用文献1には、
(ロ)送信体は、識別データを、新規作成し、表示し、訂正し、確定し、設定する、識別データ設定手段を有し、
(ハ)送信体は、データを受信体に向けて送信する送信手段を有し、
(ニ)送信体は、受信体を制御する受信体制御手段を有し、
(ホ)受信体は、前記送信手段からのデータを受信する受信手段を有し、
(ヘ)受信体は、前記の受信手段で受信したデータの中から、識別データを読み取り、それを自己の識別データとして記憶する、自己識別データ記憶手段を有し、
(ト)受信体は、前記の受信手段で受信したデータに、識別データが含まれる場合だけ、受信したデータを処理する送受信システムに関する発明が記載されている。
引用文献1に記載された発明と本願請求項1に記載された発明を比較すると、引用文献1に記載された発明は、(イ)送信体と受信体は、電源を切っても消去されない初期の識別データを保有していない点、において本願請求項1に記載された発明と相違している。 しかしながら、引用文献1に開示された発明と同様に、送受信体に設定された識別データの一致に基づいて受信したデータの処理を行う送受信システムにおいて、送信体が電源を切っても消去されない初期の識別データを保有しておく技術が引用文献2に開示されており、引用文献2における識別データは送信体のみでなく受信体にも同様に保有されていなければ通信が不可能なことを勘案すると、引用文献1に開示された発明に、引用文献2に開示された識別データの保有技術を適用することにより本願請求項1に記載された発明をなすことは当業者が容易に成し得たことと認められる。
<補正等の示唆>
本願明細書の実施例及び図面等を参酌すると、本願発明は、送信体と受信体が電源を切っても消去されない初期の識別データを保有し、電源投入後の最初の送受信体間の通信においては、当該初期の識別データを用い、その後、送信体が識別データを変更するとともに受信体に通知し、それ以後の通信においては変更後の識別データで通信を行うものと認められる。これに対し、引用文献1、2に開示された発明は、何れも識別データの変更は行うものであるが、電源投入の度に必ず初期の識別データにより通信を開始するものではない。(この相違は、主として送受信体の使用対処機器の相違に起因するものと思われる。例えば、AV機器等のリモコンでは、電源の投入/切断の度毎に送受体の識別データの設定を行う必要性は低い。)
しかしながら、現在の本願の請求項1の記載では、(イ)~(ト)に記載された構成が如何なる手順で実行されるのかが明確でないため、上記引用文献1、2に記載された発明との相違点が明確に把握(出願人にとっては「主張」であるが)できない。
また、本願発明は請求項1において「送受信システム」と記載されていることから、方法の発明でなく物の発明であると認められるので、(イ)及び(ト)の記載は、「・・・手段」という記載に補正されたい。
なお、上記の補正等の示唆は法律的効果を生じさせるものではなく、拒絶理由を解消するための一案である。明細書及び図面をどのように補正するかは出願人が決定すべきものである。
この拒絶理由通知書中で指摘した請求項以外の請求項に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平9-130869号公報
2.特開2001-268675号公報
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先行技術文献調査結果の記録
・調査した分野 IPC第7版 H04L29/02
DB名 Fターム 5K034
・先行技術文献
この先行技術文献調査結果の記録は、拒絶理由を構成するものではない。
この拒絶理由通知書の印象ですが、「ずいぶんと親切」です。中小企業の発明者が頑張っているのが審査官にも伝わったのでしょうね。
ひとつは、引用文献がずいぶんと少な目の「おとなしい」印象です。これでもかと物量でぶつけてくる審査官に対しては、ひとつひとつ反論するのが大変なのですが、主引用文献1件+副引用文献1件で、最低限の進歩性(29条2項)の拒絶理由通知ですませています。しかも、記載不備と思しき箇所があるのにも係わらず、36条の拒絶理由通知を打っていません。
最も「親切」と思ったのは<補正等の示唆>です。もう殆ど、「こうすれば特許査定してあげますよ」と言わんばかりです。この示唆に則って意見書・補正書を作成すれば、ほとんど特許査定は勝ち得たようなものです。それに対して、どのような意見書・手続補正書を作成したか見てみましょう。
【書類名】 意見書
【提出日】 平成15年12月12日
【あて先】 特許庁審査官 矢頭 尚之 様
【事件の表示】
【出願番号】 特願2002-183640
【特許出願人】
【識別番号】 502227550
【住所又は居所】 栃木県下都賀郡壬生町おもちゃのまち5-4-67
【氏名又は名称】 株式会社ブレイブ
【代表者】 六浦 俊幸
【発送番号】 389933
【意見の内容】
【0001】
拒絶理由通知の引例1.特開平9-130869.出願人三洋電気株式会社(以下引例1と称する)をよく調べて本発明と比較すると、次のごとき相違点がある。
引例1の【0014】は、受信体に表示装置があり、送信体の送信によって、そこに受信体の識別コードを表示させている。そして【0015】で、送信体でその識別コードを設定してから受信体に送信し、受信体の識別コードを設定している。
この点、本発明の受信体は、その様な識別データを表示する装置を有していないし、受信体を目視する必要がない。
さらに、引例1の識別データは、受信体に予め設定された識別データを送信体で設定しているが、本発明は、送信体で任意の識別データを作成送信し、受信体の識別コードを設定している。
【0002】
拒絶理由通知の引例2.特開2001-268675.出願人ソニー株式会社(以下引例2と称する)をよく調べて本発明と比較すると、次のごとき相違点がある。
引例2の【0012】は、「ID初期値と同一であるか否かが判断され、同一でなければ適性IDと判断し、メモリ10に格納する。もし同一であれば不適正IDと判断し、一旦データをキャンセルし、再登録の要求をする。」とある。
この点、本発明は、初期の識別データ以外の識別データ作成は、適正不適正の判断をせず、その新規作成された識別データを適正とする。
以上のような相違点により、本発明は、引例1と引例2にはない次のような効果を生む
。
【0004】
受信体に表示装置を有していないので、識別データの表示確認作業が不要であり、識別データの作成が迅速にできる。
【0005】
初期の識別データ以外の識別データ作成は適正不適正の判断をせず、その新規作成さ
た識別データを適正として処理していくので、適正不適正の判断の手順が省かれ、操作が迅速にできる。
【0006】
以上の効果によって、1つの送信体で複数の受信体を制御するにあたり、スピードが要求される場合、本発明が有効である。スピードが要求される場合とは、例えば、無線玩具での競争ゲームや対戦ゲームなどがある。
【0007】
また、引例1では、受信体であるテレビの画面での確認があるが、本発明は遠隔操作で送信信号が届く範囲内で、受信体が確認できない位置にあっても、識別コードの変更が容易にできる。これは、次のような場合に極めて有効である。
送信体と受信体が遠方に離れていた場合でも、本発明では、送信体を簡単に操作する
けで識別データを変更できるので、受信体が送信体から遠方に離れていて、人が行けない所にある場合に、同種の送信体を使用して、その送信体の識別データを受信体の識別データに変更すれば、受信体を制御できる。
例えば、飛行機玩具の中継飛行がそうである。1つの送信体による受信体である飛行機
玩具(識別コードを仮に005とする)の制御範囲は限界があるが、同種の送信体を持っているある操縦者に識別コード005を連絡すれば、その操縦者が送信体で識別コード005を作成し、飛行機玩具の制御を引き継ぐことができる。
【0008】
さらに、1つの送信体により複数の受信体を集中制御できるようになる。それは、1つの受信体を識別コードごとに設定して制御した後、次に異なる受信体に異なる識別コードを設定して制御していけるからである。
【0009】
以上のごとく、本発明は、引例1,2の単なる組み合わせのように見えても、優れた効果を多く生むものであるので、再審をお願いするものである。
なお、これらの点を明確にするために、明細書、図面、要約書を全部訂正する。
【証拠方法】 (別になし)
【その他】 (提出物件の目録) 手続補正書 1通
意見書の段落0004の「表示装置を有していない」は、明細書のどこに記載してあるのか不明です。
段落0007の「飛行機玩具の中継飛行」も、明細書には記載されていません。よって、意見書で反論する材料としては不適切とおもいます。明細書の段落0037の「さらに、受信体が、送信体から遠方に離れていて、人が行けない所にある場合に、送信体が故障や破損などして使用できなくなっても、同種の送信体を使用して、その送信体の識別データを受信体の識別データに変更すれば、受信体を制御でき、回収することも容易に可能となる。」を記載すれば良かったのではとおもいます。
段落0009の「再審」は、単なる用語の誤りですけど気になります。正しくは「審査」です。
大胆なのは、「明細書、図面、要約書を全部訂正する」という意見書の文言です。(ここでも用語の誤りがあります。「訂正」ではなく「補正」です。)自分ならば明細書・図面は全く触らず、特許請求の範囲のみを補正します。明細書や図面を下手に触ると「新規事項の追加」として補正却下を喰らったり、後発的に無効理由を抱えたまま権利化することになりかねないためです。
更に、要約書の補正期間(出願日から1年3月)は既に過ぎているため、要約書を補正することはできません。
その結果として、要約書の補正は職権訂正通知書で削除されたのち、拒絶査定が打たれました。
拒絶査定
特許出願の番号 特願2002-183640
起案日 平成16年 8月 2日
特許庁審査官 矢頭 尚之 8838 5K00
発明の名称 受信体に識別コード表示機能がなくても識別デー
タ新規作成が任意かつ迅速にできる電波を使用し
た送受信システム
特許出願人 株式会社ブレイブ
この出願については、平成15年10月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
出願人は意見書において、1.受信体に表示装置を有していないので、識別データの表示確認作業が不要であり、識別データの作成が迅速にできる点、2.初期の識別データ以外の識別データ作成は適正不適正の判断をせず、その新規作成された識別データを適正として処理していくので、適正不適正の判断の手順が省かれ、操作が迅速にできる点において本願発明の進歩性を主張する。
しかしながら、1.に関しては先の拒絶理由において認定していない引用文献1の記載に関する主張であり、2.に関しては請求項1に記載されていない構成に基づく主張であり、いずれの主張も採用できない。
更にこの出願は、拒絶査定不服審判 不服2004-20537が請求されています。
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