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昭和16年夏の敗戦

 総力戦研究所というキーワードを検索して辿り着いた本、「昭和16年夏の敗戦」をご紹介します。先月に入手したのちに繰り返し読みました。自分が読んだのは文春文庫版(左側)ですが、レビューから推測すると右側は単行本版で、内容は同じと思います。

 「総力戦研究所」とは、日本が米英蘭との戦争に突入しようという直前に、各界から集められた日本のエリート達に開戦後のシミュレーションを行わせた研究所です。

 シミュレーションに於いて驚かされたのは、日本の民間船舶保有量、南方資源地帯から資源を輸送する際の船舶造船量を算出し、船舶消耗量を保険会社ロイズのデータから科学的に算出していたことです。日本の民間船舶保有量は300万トンで、日本は年間60万トンの船舶を新規に建造できますが、反面潜水艦による攻撃等で年間120万トンの消耗が発生し、差し引き年あたり60万トンの消耗が発生します。よって開戦から3年間後には民間船舶保有量は120万トンにまで減少し、物資の輸送に多大なる支障が発生します。日本は南方の資源地帯に進出することで、米国からの石油禁輸に対抗しようとしたのですが、これだけ民間船舶の消耗が激しいようでは、実際には南方の資源は殆ど日本に届かなくなります。

 実際の戦争と比較すると、昭和17年度の船舶の消耗は87万トン、昭和18年の船舶の消耗は167万トンで、年あたり127万トンの消耗となり、シミュレーションの値とほぼ一致します。日本は、民間船の消耗により南方資源を本土に輸送できなくなり、物資(とくに石油)不足となり、軍事力や国力が低下することとなります。

 ソビエトの動向のシミュレーションは少し違うかなと感じました、「総力戦研究所」は、アメリカがソビエトと連携して、シベリアの軍事基地を利用するのではと考えていたようです。実際にはそのようなことは無く、米軍ドウリットル爆撃隊のうち1機がウラジオストックに着陸した際も、搭乗員がソビエトに抑留されていたりしています。但し、日本の軍事力が低下した際にソビエトが参戦すると読んでいるのは流石です。

 総力戦研究所のシミュレーション結果は「緒戦の勝利は見込まれるが、長期戦になり物資不足は決定的となり、ソ連の参戦もあって敗れる」というもので、第二次世界大戦を極めて精密に予測したものでした。シミュレーション報告時期は昭和16年8月、東條首相もこの報告は聞いています。

 ここまで問題が明確になっており、なおかつ開戦が避けられない状況だったならば、なぜ民間輸送船を海軍が護衛したり、または米軍潜水艦対策を積極的におこなわなかったかということが悔やまれます。確か、太平洋戦争では民間輸送船の消耗対策は殆ど行っていなかったと記憶しています。

 また、「総力戦研究所」のメンバーも、その結果を国家的にも個人的にも活用しようという者はいなかったようです。自分たちの予測の精度と、予測の価値がわかっていなかったのでしょうか。

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