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特開2002-221978の帰趨#2

特開2002-221978「ボーカルデータ生成装置、ボーカルデータ生成方法および歌唱音合成装置」とは、初音ミクに実装されていると思われる発明で、母音のタイミングを音符のタイミングと一致させる為に、子音を先行して発音させるものです。

【課題】 音節を構成する音素のうち、子音に対向する音素を音符の発生タイミングにあわせて発声することにより、伴奏に合わせたバーチャルシンガによる自然な歌唱を実現する。
【解 決手段】 歌詞に対応した音節毎の発音タイミングデータを含むボーカルデータを予め記憶する。再生処理を始めると、音符「ド」に対応した音節「さ」を発声させると き、子音「s」の発声動作を音符の発音タイミングよりも前に始め、母音「a」の発音タイミングを音符「ド」の発音タイミングに合わせる。これにより、伴奏 に遅れることなく、バーチャルシンガによる自然な歌唱を可能にする。

特開2002-221978が拒絶査定を受けたので、ヤマハ株式会社は拒絶査定不服審判(特121条)を請求し、同時に手続補正書を提出しました。最初の拒絶理由通知の「引用文献1のものはノートオン/オフのタイミングを直接かえて、このタイミングを実現しているが、これを、ノートオン/オフのタイミングは変えずに、音声波形の読み出し時期を制御することにより実現することは当業者が容易に発明をすることができたものである。」の意見に真っ向から反論しています。


【書類名】      手続補正書(方式)
【提出日】      平成17年 1月17日
【あて先】      特許庁長官 殿
【事件の表示】
  【審判番号】   不服2004-25743
  【出願番号】   特願2001- 19141
【補正をする者】
  【識別番号】   000004075
  【氏名又は名称】 ヤマハ株式会社
【代理人】
  【識別番号】   100098084
  【弁理士】
  【氏名又は名称】 川▲崎▼ 研二
  【電話番号】   03-3242-5481
【発送番号】     415026
【手続補正1】
 【補正対象書類名】 審判請求書
 【補正対象項目名】 請求の理由
 【補正方法】    変更
 【補正の内容】
  【請求の理由】
  【手続の経緯】
   出願            平成13年1月26日
   拒絶理由の通知(発送日)  平成16年6月8日
   意見書(提出日)      平成16年8月6日
   手続補正書(提出日)    平成16年8月6日
   拒絶査定(起案日)     平成16年11月8日
   同謄本送達(送達日)    平成16年11月16日
   手続補正書(提出日)    平成17年1月17日

  【拒絶査定の要点】
(a)原査定の拒絶理由は、本願の請求項1~8に係る発明は、特開平10-31999
3号公報(以下、引用例という)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の
技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである

(b)その理由は、要するに、引用例には、音声波形を通常のノートオンタイミングで読
み出すと、子音の発音時間分だけ聴取者には発音が遅れたように聞こえる課題を解決する
ため、ノートオンのタイミングが母音の発音開始点となるように音声素片の読み出しタイ
ミングを調整することが記載されているため、本願発明は、この引用例に記載された発明
に基づき容易に発明することができたものである、というものである。
  【本願発明が特許されるべき理由】
(a)本願発明の説明
 請求項1に係る発明は、「メロディおよび歌詞に対応するボーカルデータを生成するボ
ーカルデータ生成装置であって、歌詞の音節のデータ数と前記メロディに対応する音符の
データ数とを合わせて、該歌詞の音節を該メロディに対応する音符に割り当てる歌詞割当
手段と、前記音節を音素に分け、各音節を構成する音素のうち、母音の音素の発音タイミ
ングが前記音符に対応する発音タイミングに合うように各音節の発音タイミングを指示す
る発音タイミングデータを生成する発音タイミングデータ生成手段と、前記音節の音素列
データ、前記発音タイミングデータおよび前記音節に対応した音高データをボーカルデー

タとして生成し、このボーカルデータを出力するデータ出力手段と、を備えたことを特徴
とするボーカルデータ生成装置」を要旨とするものである。
 かかる発明によれば、歌詞の音節のデータ数とメロディに対応する音符のデータ数とを
合わせて、該歌詞の音節を該メロディに対応する音符に割り当て、歌詞の音節を音素に分
け、母音の音素の発音タイミングが音符に対応する発音タイミングに合うように各音節の
発音タイミングを指示する発音タイミングデータを生成するので、操作者の手を全く煩わ
せることなく、歌詞に含まれる音節のうち子音および母音からなる音節のみを対象とし、
音符のタイミングより遅れて聞こえることのないよう自動的に音節の発音タイミングを調
整することができる。
 請求項2は、この請求項1におけるボーカルデータの出力態様に関し、「ボーカルデー
タをシステムエクスクルーシブメッセージに含ませて出力する」なる技術的限定を加えた
ものである。
 請求項3~6は、請求項1または2にさらなる技術的限定を加えて従属項、請求項7お
よび8は請求項1および2を各々方法のカテゴリに書き換えた請求項である。
(b)補正の根拠の明示
 同時に提出する手続補正書により、請求項1、2、7および8における歌詞割当手段ま
たは歌詞割当工程は、「歌詞の音節のデータ数と前記メロディに対応する音符のデータ数
とを合わせて、該歌詞の音節を該メロディに対応する音符に割り当てる」ものであること
を明らかにする補正を行った。この補正は、本願の出願当初の明細書における段落004
2の記載を根拠とするものである。
(c)引用発明の説明
 引用例の段落0060~0065には、音節毎に発音タイミングを早める程度を示すク
ロック数を定めた変換テーブルを記憶し、各音節の音声データの発生タイミングをその変
換テーブルに定められたクロック数だけ早める旨が開示されている。また、引用例の段落
0059および0060には、音節が音として聞こえるタイミングが子音のデュレーショ
ンにより遅れる旨が開示されている。また、引用例の段落0063には、子音の音素を含
まない音節については、発音タイミングを早める程度を示すクロック数を変換テーブルに
おいて定める必要がない旨が開示されている。
(d)本願発明と引用発明との対比
 引用発明は、子音のデュレーションにより聴取者には発音が遅れたように聞こえる課題
を解決するため、音節の発音タイミングを早めるものである点において、請求項1に係る
発明と共通の特徴を有する。

 しかしながら、請求項1に係る発明と引用発明との間には、次の相違点がある。すなわ
ち、請求項1に係る発明は、「音節を音素に分け、各音節を構成する音素のうち、母音の
音素の発音タイミングが前記音符に対応する発音タイミングに合うように各音節の発音タ
イミングを指示する発音タイミングデータを生成する」
に当たり、「歌詞の音節のデータ
数と前記メロディに対応する音符のデータ数とを合わせて、該歌詞の音節を該メロディに
対応する音符に割り当てる」という技術的特徴を有するのに対し、引用発明はこの技術的
特徴を有しない。
 音節には、母音のみからなる音節と、子音および母音のみからなる音節とがあるが、請
求項1に係る発明によれば、「歌詞の音節のデータ数と前記メロディに対応する音符のデ
ータ数とを合わせて、該歌詞の音節を該メロディに対応する音符に割り当てる」ため、各
音符には1つずつ音節が割り当てられ、それらのうち子音および母音からなる各音節につ
いては、「母音の音素の発音タイミングが前記音符に対応する発音タイミングに合うよう
に各音節の発音タイミングを指示する発音タイミングデータを生成する」ことができる。
このように請求項1に係る発明によれば、歌詞の中に含まれる音節のうち子音および母音
からなる音節のみを自動的に選択して調整対象とし、音符より遅れて聞こえることのない
ようにその音節の発音タイミングを調整することができる、という引用発明からは得られ
ない格別な効果が得られる。
このような特徴は、引用例には開示されておらず、示唆すら
されていない。

 よって、請求項1に係る発明は、引用発明に基づき容易に発明することができたもので
はなく、特許要件を具備すると確信する次第である。
 他の請求項に係る発明は、請求項1に係る発明にさらなる技術的限定を加えたもの、あ
るいは請求項1に係る発明のカテゴリのみを変更したものである。
 よって、これらの請求項に係る発明も、請求項1と同様の理由により、特許要件を具備
すると確信する次第である。
  【むすび】
 以上のように、本願発明は引用例に記載された発明とは全く別異であり、引用例から容
易には想到し得ないものであるから特許要件を具備するものと確信致します。よって本願
に対し、特許査定を賜りますようお願いする次第です。

これに対しての前置報告書は以下のものです。

                前置報告書

 審判番号         不服2004-25743
 特許出願の番号      特願2001-019141
 特許庁審査官       渡邊 聡         8622 5D00
 作成日          平成17年 2月23日

 この審判請求に係る出願については、下記の通り報告する。

                 記
 平成17年1月17日付け手続補正書にて新たに付加された構成(歌声生成時
に音符数と音節数とを対応させてメロディ付き音声を出力する点)は下記の周知
文献に記載されている。

本願出願前周知の技術事項を示す文献
特開2000-105595号公報

前置審査で、審査官は新たな先行技術として特開2000-105595「歌唱装置及び記録媒体」を指摘しました。出願人は日本ビクター株式会社です。この先行技術の要約を見てみます。

【課題】 任意のテキストファイルを自動的にメロディ にのせて歌にしてしまう歌唱装置がなかった。
【解決手段】 供給されるテキストデータはテキスト解析部4によってその音節データに変換され、供給されるテキストデータと共にメロディ 生成部6に出力される。また、音楽生成用SMF2aもメロディ 生成部6に出力される。そして、音節データは音楽生成用SMF2aのメロディ ーに割り当てられてシーケンサ部8に出力され、ソフトシンセ12によって、音節データを音声に変換して音程を変化させながらサウンド出力部14から出力する。

 VOCALOIDを先取りしたような発明を日本ビクターが出願していたものだと感心してしまいました。しかし、日本ビクターは、この発明が単発だったらしくてあとが続いていません。

 さて、拒絶査定不服審判は請求棄却審決となりましたが、その理由を見てみます。まずは引用発明との一致点と相違点を認定し、相違点について当業者が容易に想到することの論理を構築しております。このあたりは審査基準を厳格に守っていますね。

(一致点)
 「メロディおよび歌詞に対応するボーカルデータを生成するボーカルデータ生成装置であって、
 歌詞の音節のデータと前記メロディに対応する音符のデータとを合わせて、該歌詞の音節を該メロディに対応する音符に割り当てる歌詞割当手段と、
 前記音節を音素に分け、音節を構成する音素のうち、母音の音素の発音タイミングが前記音符に対応する発音タイミングに合うように音節の発音タイミングを指示する発音タイミングデータを生成する発音タイミングデータ生成手段と、
 前記音節の音素列データ、前記発音タイミングデータおよび前記音節に対応した音高データをボーカルデータとして生成し、このボーカルデータを出力するデータ出力手段と、
を備えたボーカルデータ生成装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
 本願補正発明は、歌詞の音節のデータ数とメロディに対応する音符のデータ数とを合わせて、歌詞の音節をメロディに対応する音符に割り当てているのに対し、引用例に記載された発明は、歌詞の音節のデータとメロディに対応する音符のデータとを合わせて、歌詞の音節をメロディに対応する音符に割り当てるものではあるが、歌詞の音節のデータ数とメロディに対応する音符のデータ数までを合わせるとは明記しない点。

(相違点2)
 本願補正発明は、各音節を構成する音素のうち、母音の音素の発音タイミングが音符に対応する発音タイミングに合うように各音節の発音タイミングを指示する発音タイミングデータを生成しているのに対して、引用例1に記載された発明は、音符の発生タイミングに対して発音の遅れを感じた歌詞(例えば、「か」)についてのみ音節の発生タイミングを指示して発音タイミングデータを生成している点。

(4)判断
(相違点1について)
 上記相違点1について判断するに、(i)通常、メロディを構成する音符の総数と歌詞を構成する音節の総数とは、ほぼ同数とされていることは、歌を愛好する人なら誰でも経験していることである。
(ii) また、メロディを構成する音符の総数と歌詞を構成する音節の総数とを、ほぼ同じ数とし、メロディが奏でられている間中、歌詞を歌唱することは、例えば、特開2000-105595号公報(特に、段落【0039】~【0041】の記載を参照。)にその旨の記載があるように当業者のみならず歌を愛好する人には周知自明な技術常識である。
 以上のことに鑑みると、引用例1に記載された発明に上記周知技術常識を適用して、本願発明の如く構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
 上記相違点2について判断するに、(i)引用例1に記載されているように(前掲(ア)~(ウ)参照。)、音節が母音と子音からなる場合、母音の発声タイミングを音符の発生タイミングに合わせると音符が示す音の発生から遅れて、音節の音が聞こえる現象は、当分野の当業者の間に広く認識されている音現象であり、しかもこの問題を解消するためには音符の発生タイミングよりも子音の発声タイミングを少し前にずらせば解決すること(このことは人間が歌を歌うとき無意識に行っていることは、本願補正発明の明細書の段落【0004】における記載でも指摘されている。)も当業者の間に広く知られている自明な技術事項である。(ii)そして、引用例1に記載された発明は、音節及び音声データ編集時の操作性を高めるために、母音と子音とからなる音節すべてに対して等しく母音の発声タイミングを変更する構成を採用せず、敢えて、音符の示す音の発生から遅れを感じた歌詞のみに対して母音の発声タイミングを変更する構成を採用しているのであるから、音印象の如何にかかわらず一律に発声タイミングの変更を行うようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。そして、その奏する効果の程も当業者の当初の予測の範囲を超えるものではない。

(5)むすび
 以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものであるから、平成17年1月17日付けの手続補正は、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

自分は、特開2000-105595「歌唱装置及び記録媒体」の図面に驚いてしまいました。まるで「初音ミク」の予言のように感じてしまいます。


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 ついでに、最初の拒絶理由通知に記載された特開平10-319993 「データ編集装置」 を調べてみました。この特許の出願人はヤマハ(株)じゃないですか!しかも権利化されています。だったら、特開2002-221978 の権利化に拘らなくてもよかったのではと思います。

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コメント

初めまして、あるメーカーの知財部員です。

>この特許の出願人はヤマハ(株)じゃないですか!しかも権利化されています。だったら、特開2002-221978 の権利化に拘らなくてもよかったのではと思います。

なぜでしょうか?
権利期間を考えると、少しでも長く独占権を確保しておくために、
改良点があれば、権利化を図るのは当然だと思います。

投稿: 知財部員 | 2008年5月15日 (木) 14時27分

初めまして、知財部員さん

そうですね。同一発明として29条1項各号の一の拒絶ではなく、29条2項の進歩性で拒絶されているので、相違点は有るのだと思います。

本件に関しては考察の上、改めてブログに記載します。

投稿: 和泉聡 | 2008年5月15日 (木) 22時55分

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