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Patent Bar

 タイトルに記載した「Patent Bar」とは米国特許庁がおこなうPatent Agent 資格試験です。
 先週、受講した米国特許法セミナーの宿題が「Patent Barからの出題」ということで、ちょっとハードでした。出題された部分は弁理士試験の短答とほぼ同じ内容ですね。5択問題ということは共通していますが、出題傾向はちょっと違います。
 なかでも特に面白いと思ったのが第8問目でした。ちょっと概要を紹介します。
 「特許出願の請求の範囲は、要件が(1)から(5)から構成されています。しかし、拒絶査定により2年前に発行された先願特許公報には要件(1)から(4)までが記載されています。このとき審査官は法102条(B) (日本国特許法29条1項3号相当) で拒絶理由を通知しました。これに対する抗弁として最も適切なものを挙げてください。」
 自分は上記の問題は実務に沿っており面白いと思いました。日本国の弁理士試験でもこれに類する問題を出していただきたく思います。

 

以下に法102条(B)を引用します。自分自身の纏めを兼ねています。

A person shall be entitled to a patent unless
・・・・
(b) the invention was patented or described in a printed publication in this or a foreign country or in public use or on sale in this country, more than one year prior to the date of the application for patent in the United States,

 主文は29条1項柱書相当ですが、「産業上利用できる発明」「特許を受ける権利」の概念は記載されていません。
 (a)-(g)には、特許を受けることができない項目が列挙されており、29条1項各号に相当します。米国では先発明主義をとるため、特許を受けることができない要件が極めて複雑となっています。この中で、(b)項の要件が明確で利用性に富むため、実務上も重要なものです。以下直訳します。

(b)米国出願日の1年前以前に、
その発明が我国又は外国に於いて既に特許されているか、
または我国又は外国における刊行物に記載されているか、
または我国において使用又は譲渡されている場合。

 ここで言う「米国出願日」とは米国における現実の出願の日をいい、優先日のことではありません。 「米国出願の1年前以上」とは、あたかも日本に於ける新規性喪失例外(特30条)に相当するものと考えることもできます。いわゆる GRACE PERIOD です。
 最初の要件は日本国特許法39条1項に相当し、2番目の要件は29条1項3号に相当し、3番目の要件は同2号に相当します。
 先発明主義を採用する米国に於いては、新規性の要件は「発明日」を基準とする極めて複雑かつ法的安定性に欠ける条文ばかりですが、この102条(B)のみは「米国出願日」という動かしがたい基準を採用しています。よって、他社特許を無効化する際など、公知文献調査する日付の基準として「米国出願日の1年以上前」の基準が採用されています。

 余談ですが、パリ優先権が先の出願の日から1年以上経過しても有効である場合があります。以下条文が根拠となります。

パリ条約4条 C
(3)優先期間は、その末日が保護の請求される国において法定の休日又は所轄庁が出願を受理するために開いていない日に当たるときは、その日の後の最初の就業日まで延長される。

 よって、パリ条約4条C(3)に該当する場合で、かつ先の出願をおこなったパリ同盟国で1年以内に特許査定された場合には、米国特許出願は102条(B)を根拠に拒絶されます。よって、法102条(B)はパリ4条Bに違反すると解されます。
 まあ、国内特許出願のみ非公開の請求ができるという、パリ条約の内外人平等の原則を軽く踏みにじっている米国ですから、上記のような問題点など気にも留めていないのかもしれませんね。

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