弁理士試験制度改革の影響の分析
これは、平成20年度から施行される弁理士試験制度が難易度に如何なる影響を与えるかについて、特許庁HPの弁理士試験統計と推定条件を元に算出した結果です。
現状把握の為に上記統計を分析します。
(1)志願者10060人の92.4%にあたる9298人が短答を受験します。
(2)短答式筆記試験に合格するのは30.9%に相当する2878人です。
(3)論文式筆記試験に合格するのは22.7%に相当する655人です。
選択免除者1676人のうち、25.9%に相当する434人が合格しました。
選択非免除者1202人のうち、18.4%に相当する221人が合格しました。
うち、選択非免除者合格率と選択免除者合格率の比から、選択試験の合格率は71.0%と推定されます。
(4)口述式試験に合格するのは、90.3%に相当する635人です。
(5)最終合格率は志願者の6.3%です。
2、弁理士法の一部を改正する法律(平成19年6月20日法律第91号)
この法律は平成19年3月9日に閣議決定された、「弁理士法の一部を改正する法律案」は平成19年6月12日に可決・成立し、6月20日に法律第91号として公布されております。
弁理士試験に影響を与える部分の要旨を抜粋します。
1、短答式筆記試験の合格後2年間免除(11条1号)
2、論文式筆記試験の必須科目の合格後2年間免除(同2号)ここでいう必須科目とは、特実意商全てを合格したものをいいます。(10条1号)
3、論文式筆記試験の選択科目の合格後の免除(同3号)
4、一定要件を備えた大学院における工業所有権に関する科目を習得したものの、課程を修了した日から2年間の短答式筆記試験の免除(同4号)
いままで持ち越すことが認められていなかった短答・論文必須科目が合格後2年間免除され、かつ選択科目は一度合格したならば、以降は選択科目免除者と同等の扱いがされます。これは、各試験の競争率が同一と仮定したならば、極めて受かりやすくなるようにも思えます。これを「合格者激増説」と呼びます。
しかし、日本弁理士会HPや特許庁HPを参酌すると、特許庁は現在の弁理士試験合格者の質について十分であるとは認識しておらず、むしろ質の向上に対する施策が必要であると考えているようです。よって、今回の法改正は合格しやすくする施策として運用されるとは考えにくく、短答試験・論文試験・口述試験は難化すると思われます。これを「試験難化説」と呼びます。
二説の共通の前提条件を以下に記載します。
①受験者総数は10000人が維持されます。
②志願者が短答を受験する割合は92.4%のままです。
③口述の合格率は90.3%のままです。
④短答免除資格または必須科目の論文免除資格を取得した受験者は、かならずその後2年間は受験します。
⑤一定要件を備えた大学院からの受験者の影響は考慮しません。
合格者激増説
短答試験・論文試験・口述試験の競争率は変わらず、よって合格者が激増するという説です。
1、前提
・短答試験・論文試験・口述試験の競争率は変わらないと仮定します。
2、合格者の推移
①H20年
合格者は600名程度です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は2248名、必須論文免除者176名(うち選択免除者は115名)です。
②H21年
合格者は1057名です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は3405名、必須論文免除者267名(うち選択免除者は154名)です。
③H22年
合格者は1167名です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は2717名、必須論文免除者213名(うち選択免除者は124名)です。以降は定常状態に収束します。
④H23年
合格者は1167名です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は2668名、必須論文免除者209名(うち選択免除者は124名)です。以降は合格者数・短答免除者数・論文免除者数ともに同様の人数のまま推移します。
余談ですが、H22年に弁理士受験史上初めての「短答免除資格を有さない論文免除資格者」が発生します。短答免除2年目に初めて論文に受かり、かつ口述に落ちた場合です。その者は、H23年度には短答免除資格を喪失し、かつ論文免除資格1年目を有するために、短答式筆記試験と口述試験のみで合格可能です。
3、備考
この説の欠点は、最終合格者数が倍ちかく増え、弁理士の質の低下を招くと思われることです。特許庁が問題視している「弁理士の質の低下」に真っ向から抵触します。また、現状の合格率6%がわずか3年間で倍増します。合格率の急激な変化は弁理士の質の急激な変化を引き起こす蓋然性が高いです。
よって、特許庁がこの施策をとるとは考えにくいと判断します。
試験難化説
短答試験及び論文試験を難化させて、合格者を6%程度に絞る説です。
1、前提
・短答試験の競争率τと論文試験の合格率γの関係は以下と仮定します。
1.36τ=γ (H18年度実績より)
・論文試験の合格率γは、選択科目と必須科目両方に合格した者の割合をいいます。
・論文試験の必須科目の合格率を h と定義します。
・論文試験の選択科目の合格率を s=71.0%と仮定します。(H18年実績より)
・選択免除者と選択非免除者の割合は50%ずつと仮定します。このとき以下の式が成立します。
γ=(0.5・h+0.5・h・s)=0.5(h+0.71・h)=0.855・h
・口述試験の競争率κ=90.3%と仮定します。(H18年実績より)
2、定常状態
(1)短答式筆記試験について
短答受験者数をΤとすると、
短答免除1年目の人数は、Τ・τ・(1-γ)で、
短答免除2年目の人数は、Τ・τ・(1-γ)・(1-γ)です。
短答受験者と免除者の和はΤ(1+τ(2-3γ+γ・γ))で、9240名と仮定します。(H18年度受験者数より)
(2)論文式筆記試験と口述試験について
口述試験の合格率κ=90.3%と高いことから、論文合格者と口述合格者は等しいと仮定し、論文免除者は無視して近似計算します。
論文受験者数は、Τ・τ・(3-3γ+γ・γ)です。
(3)最終合格者数について
最終合格者数は、Τ・τ・(3-3γ+γ・γ)・γ・κで、600名と仮定します。
多次連立方程式に前提の式を代入すると、以下の解が導かれます。
短答受験者(非免除者数)Τ=7206名
短答合格率 τ=19.0%
論文合格率 γ=14.0%
論文必須科目合格率 h=16.8%
論文選択科目合格率 s=71.0% (H18年度実績より推定)
(3)過渡状態
試験制度改正前から、試験制度改正後の定常状態に向けてなだらかに移行する要件を備えた一例です。
①H20年度
短答合格率τ=24.3%、論文必須科目合格率 h=25.8%。
最終合格者446名です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は1761人、論文免除者は138人です。
この年の短答合格率は、試験制度改正2年前(平成18年度)の短答合格率と、定常状態の短答合格率の相乗平均と仮定しました。
②H21年度
短答合格率 τ=19.0%、論文必須科目合格率 h=20.9%。
最終合格者642名です。
来年以降の試験に措ける短答免除者は2596人、論文免除者162人です。
この年の論文必須科目合格率は、試験制度改正2年前(平成18年度)の論文必須科目合格率と、定常状態の論文必須科目合格率の相乗平均と仮定しました。
③H22年度
短答合格率τ=19.0%、論文必須科目合格率 h=16.8%。
最終合格者657名です。
来年以降の試験に措ける
短答免除者は2094人、論文免除者110人です。
以降は、ほぼ定常状態のまま推移します。
3、備考
最終合格者数は、ほぼなだらかに推移し、かつ合格者数もほぼ6%前後に推移することから弁理士の質の向上に寄与すると思われ、特許庁が問題視している「弁理士の質の低下」への対策となりえます。よって、特許庁が上記施策を予定している蓋然性は高いと判断いたします。
4、短答ボーダーの推移の推定
平成19年度のLEC短答リサーチの得点分布から推定した合格点の推移の推定を以下に記載します。平成19年度は短答受験者のうち、39点以上を得点した29.5%が合格しました。これは短答リサーチ参加者のうち上位960名に相当します。
①H20年度
過渡的に短答合格率が24.3%に上昇するということは、短答リサーチ参加者でいうと上位790名に相当し、このときのボーター点数の推定は41点となります。プラス2点ボーターラインが上昇することになります。
②H21年度以降
定常状態に措いて短答合格率が19.0%に上昇するということは、短答リサーチ参加者でいうと上位618名に相当し、このときのボーター点数の推定は43点となります。プラス4点ボーターラインが上昇することになります。
なお、上記推定は一定要件を備えた大学院における工業所有権に関する科目を習得したものの、課程を修了した日から2年間の短答式筆記試験の免除(弁理士法11条4号)を全く考慮しておりませんので、上記の「試験難化説」の仮定よりも更に難化する可能性すら否定できません。
以上
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